STAGE 7双子のパラドックスの種明かし
ジャンプの正体は、「今」という物差し
🎯 ミッション
「同時性のジャンプ」の正体を見極め、前方へ発射した光や60度傾いた光時計でもちゃんと辻褄が合うことを確かめよう。
未達成

ねこ博士
前のステージの最後の、うさ美の疑問から始めよう——折り返しの瞬間、Aの光は80%の高さから30%の高さへワープして見えた。これは光速度不変の原理に反しないのか? いよいよ、双子のパラドックスの本当の種明かしだ。
実際にはワープしない。鏡と発射台と地面はなめらかに流れているだけで、光も瞬間移動せず、天井鏡まで届いて反射してから、なめらかに(でもとても速く)30%の高さまで下りてくる

ねこ博士
実はこれが、ステージ2で学んだ「どの慣性系から見ても」という言葉が生きてくる場面なんだ。光速度不変の原理は慣性系(一定の速さでまっすぐ進んでいる立場)でこそ成り立つルール。でも、うさ美が折り返すときの加速(減速)中は、慣性系が連続的に切り替わっている最中だから、話が少し変わってくるんだ。

うさ美
じゃあ、折り返しの間だけは光速度不変が破れている、ということですか?

ねこ博士
いや、そうじゃない。ワープして見えるのは「本物の光」じゃなくて、うさ美が「博士の今」をどう決めるかという物差しの方なんだ。光そのものは行きも帰りもずっと秒速30万kmでまっすぐ進んでいて、一瞬たりとも速さは変わっていない。

ねこ博士
たとえば、すごく遠い壁に向かってレーザーポインターをサッと振ると、点は壁の上を光速より速く走って見えることがある。でも実際に飛んでいる光子1本1本は、ちゃんと秒速30万kmでしか進んでいないよね? 動いて見えるのは「点の位置」というパターンだけで、物や情報そのものが運ばれているわけじゃないから、光速を超えて見えても問題ないんだ。
レーザーポインターを速く振ると、遠い壁の上でスポットが動く速さは光速を超えて見えることがある。でも実際に飛んでいる光は1本1本、常に秒速30万kmでまっすぐ進んでいるだけ

うさ美
でも、レーザーポインターの例えだと、壁の点を光らせているのはそのつど別々の光子ですよね? 光時計の光は、行きも帰りもずっと同じ1つの光子のはずです。同じ粒子の「今どこにいるか」が一瞬で切り替わって見えるのは、やっぱり少し腑に落ちません。

ねこ博士
いいところに気づいたね。実はレーザーポインターの例えは「別々の光子が代わる代わる点を照らす」ケースの説明だから、「同じ1つの光子」を追いかける今回の場合とは、厳密には少し違う話なんだ。もっとぴったりの例えを見せよう。

ねこ博士
はさみを閉じるところを想像して。刃自体はゆっくり動いているだけなのに、2枚の刃が交わる「点」は、はさみが長ければ長いほど、閉じる角度の変化に応じてすごく速く動くことができる。金属そのものが速く動いているわけじゃなく、「2つの線が交わる場所」という、物ではない幾何学的な点が動いているだけだからなんだ。
刃自体はゆっくり閉じていくだけなのに、2枚の刃が交わる点は、閉じるほど(角度が小さいほど)どんどん速く外側へ動いていく——物ではない「交わる場所」だから、光速を超えても物理法則に反しない

ねこ博士
光子自身は、うさ美が何をしようが関係なく、宇宙の中に決まった1本の道筋をすでに持っている――これがはさみの片方の刃にあたる。もう片方の刃は、うさ美自身の「今」という基準面。折り返しの瞬間、この基準面の向きが急に変わるから、「基準面と光子の道筋が交わる点」――つまりうさ美から見た光の位置――がすごい速さでスライドする。でも動いているのは彼女の物差しの向きだけで、光子という「物」自体は、相変わらず秒速30万kmで自分の道を進んでいるだけなんだ。

うさ美
なるほど……! 光子そのものが瞬間移動しているんじゃなくて、私の「今」の基準という、物ではない面が向きを変えているだけなんですね。だから同じ1つの粒子でも、光速度不変の原理とは矛盾しないんだ。

うさ美
では例えば、電車にもう一つ光の発射台があったとして、スタート時に進行方向に向かって光が発射されたとします。うさ美にとっては秒速30万kmで遠ざかっていくように見えるはずですが、折り返し時にはどう見えますか? 博士は「動かない点」でしたけど、光は動き続けていますよね……。

ねこ博士
面白い応用問題だね! うさ美自身の時間で1.0秒経った折り返しの瞬間には、光は彼女から見て30万km先にいる。ここでも「今」の基準がジャンプするのは博士のときと同じだよ。でも博士は動かない点だったのに対して、この光は動き続けている目標だから、「切り替わった後の基準面が、光の(すでに進み続けている)軌道のどこと交わるか」を計算し直す必要があるんだ。
横軸はうさ美自身の経過時間、縦軸はうさ美から見た「前方の光までの距離」。博士の時計のグラフとは逆に、折り返しの瞬間だけ距離が縮む向きにジャンプする

ねこ博士
計算すると、帰りの基準に切り替わった瞬間、光は7.5万km先にいることになる。30万kmから7.5万kmへ、22.5万km分「近づいた」ように見えるんだ。博士のジャンプとは向きが逆――博士はうさ美の後ろ(進行方向と逆側)にいたから時計が進む向きにジャンプしたけど、この光は前(進行方向と同じ側)にあるから、距離が縮む向きにジャンプするんだよ。
発射台(左端)は、うさ美自身の視点なので動かない。地面の破線は、行きは前へ、折り返しからは後ろへ流れて、電車の進行方向と折り返しを表している。光は秒速30万kmで遠ざかり、折り返しの瞬間だけ7.5万kmの地点へワープして見え、そこからまた秒速30万kmで遠ざかっていく

ねこ博士
折り返した後も光速度不変は変わらないから、光は7.5万kmの地点から、また秒速30万kmで彼女から遠ざかっていく。うさ美が戻ってくるまでに、7.5万+30万=37.5万km先まで進んでいることになるんだ。

うさ美
なるほど……! 博士は「後ろ」にあったから時計が進む向きにジャンプして、この光は「前」にあったから距離が縮む向きにジャンプするんですね。同じ「同時性のジャンプ」でも、位置関係によって向きが変わるんだ。

うさ美
ではもう一つ。例えば先ほどの光時計AとBに加えて、地上では電車の進行方向に30度傾いた(地上との角度60度)光時計Cと、電車の上には進行方向逆向きに30度傾いた(地上との角度60度)光時計Dを置いて、秒速15万kmで走る電車のスタートと同時に光を発射させた場合、博士とわたし、それぞれの視点で、相手の時間はどう見えますか? つまりわたしからはCが真上に打ちあがっている状態で、博士からはDが真上に打ちあがっている状態です。今回は電車は折り返さなくてもいいです。
A・Cは地上の同じ点から、B・Dは電車の同じ点から、電車のスタートと同時に光を発射する。Aは地面に垂直、Cは地面との角度60度(進行方向へ)。Bは電車の床に垂直、Dは電車の床との角度60度(進行方向と逆向きに)
Cは地上に固定されているのに、光の水平方向の速さがちょうど電車と同じになるので、うさ美からは真上へ。Dは電車に固定されているのに、光の水平方向の速さがちょうど0になるので、博士からは真上へ――電車が先に進んでも、Dの光はその場に取り残されたようにまっすぐ上る

ねこ博士
面白い設問だね! 整理しよう。A(地上に固定・垂直)とB(電車に固定・垂直)はもう馴染みのある光時計、C(地上に固定・60度前傾き)とD(電車に固定・60度後ろ傾き)が今回の新顔だ。速さは全部秒速15万km(0.5c)で統一しよう。まず博士自身の視点から考えよう。AとCはどちらも地上に固定された時計だから、博士にとっては当たり前の話――光速はどの向きでも同じだから、彼自身の1.0秒後には、AもCもちょうど鏡に届く(100%)んだ。

うさ美
じゃあ、うさ美自身から見たBとDも、同じ理由で当たり前に100%になりますね! 自分に固定された時計だから。

ねこ博士
その通り! 難しいのは、博士から見たBとD、うさ美から見たAとC――つまり「相手側の時計」の方だ。何か気になることはあるかい?

うさ美
はい……実は、DもCも、もう鏡に反射して戻ってきている途中なんです。つまり、お互い相手の方が時間が遅れて見えるはずなのに、わたしにとってのC、博士にとってのDの時計はむしろ進んでる——そこが分からないんです。
AとDの光は、反射するまでまったく同じ「真上へ光速」の一本道を進む。違うのは鏡がどこにあるか(Aは固定、Dは動いている)だけで、それが反射のタイミングの違いを生む

ねこ博士
じゃあ、一緒に考えてみよう。1.0秒のところで止めずに、光が完全に1往復し終えるまで待ったらどうなるか考えてみよう。Cの光は地上に固定された鏡へ行って戻ってくるだけだから、往復にかかる時間はAとまったく同じ、博士自身の2.0秒だ。一方、うさ美から見たBとDは、電車という同じ場所から出て同じ場所に戻ってくる往復だから、うさ美自身の2.0秒になる。これを博士から見た時間に直すとどうなるか、計算してみよう。
うさ美自身の2.0秒は、博士から見ると時間の遅れの倍率γ(≈1.1547)をかけて約2.309秒になる

ねこ博士
博士から見ると2.309秒――これもBとDでまったく同じになる。つまり、Cが「もう折り返して戻ってきている」ように見えたのは、往復の途中経過にすぎない。傾きが変えるのは「いつ折り返すか」というタイミングだけで、往復の合計時間は、垂直な時計とぴったり同じになるように帳尻が合うんだ。だから、光が完全に1往復し終えた瞬間には、AとC、BとDは、それぞれ博士自身・うさ美自身の時計とぴったり同じ時刻を指していて、二人が最終的に見るものに食い違いは起きないんだよ。
道筋はそれぞれ違っても、相手側の時計はすべて2.309秒でちょうど出発点に合流する。
点線(自分の垂直な時計=A・B)は自分自身の2.0秒で往復を終える。ゴールド(相手の傾いた時計=D・C)は真上に上って0.866秒で反射し、斜めに下って合流。ティール(相手の垂直な時計)は斜めに上って1.1547秒で反射。紫(自分の傾いた時計)は斜めに上って1.0秒で反射する
点線(自分の垂直な時計=A・B)は自分自身の2.0秒で往復を終える。ゴールド(相手の傾いた時計=D・C)は真上に上って0.866秒で反射し、斜めに下って合流。ティール(相手の垂直な時計)は斜めに上って1.1547秒で反射。紫(自分の傾いた時計)は斜めに上って1.0秒で反射する

ねこ博士
違うのは「どこで鏡に当たるか」だけだよ。ローレンツ変換で考えてみよう。Dの鏡は、電車自身の座標系(x',t')ではx'=-h/2の位置にずっと固定されている(hは鏡までの距離、後ろ向きに60度傾いている分の水平成分がh/2になる)。これを博士の座標(x,t)に変換すると、x=γ(x'+vt')になるから、電車が進むにつれて鏡の位置はx=0に向かって近づいてくる。

うさ美
光の方はどう動くんですか?

ねこ博士
光はAともDとも共通の出発点(x=0)から真上へ発射されるから、光の位置はずっとx=0のまま。だから光と鏡が出会うのは、電車の鏡がちょうどx=0まで移動してきた瞬間——計算すると、博士自身の時刻で0.866秒(=√3/2)だ。Aの鏡は地上に固定されてx=0から動かないから、光の道のりがそのまま博士自身の1.0秒になるだけだね。

うさ美
あ、だから博士の1.0秒後には、Dの光はもう反射を終えて、0.134秒分だけ戻ってきている途中なんですね。

ねこ博士
その通り。高さで言うと、ちょうど90.7%の地点にいる計算になる。「Aと同じ道を進んだ光が、Aより早く鏡に当たって跳ね返り、少しだけ戻ってきた」——これがDの正体だよ。
電車の座標系に固定されたDの鏡の位置をローレンツ変換で博士の座標に持ち込むと、光と出会う瞬間はちょうど博士自身の0.866秒(=√3/2)だと分かる

うさ美
なるほど……! CとBの関係も、まったく同じ理屈なんですね。同じ道を進むのに、鏡が動いているかどうかで、反射のタイミングだけが変わるんだ。

ねこ博士
その通り。同じ理屈を使えば、A・B・C・D全部の割合が求められるよ。結果をまとめてみよう。
自分自身に固定された時計はどちらから見ても当然100%。相手側の時計を見ると、垂直な方(A・B)は86.6%、60度傾いた方(C・D)は90.7%で、博士とうさ美のどちらから見ても同じ数字になる――これが相対性理論の「相互性」だ

うさ美
そうか!光時計の仕組みが鏡に反射した度に1秒ずつカウントする想定でいたから、斜めに置くと片道では正確に測れないだけの話なんですね。……あ、そういえば、まだ引っかかっていることがもうひとつあります。ステージ4で出てきた「車庫のパラドックス」――20万kmの車庫Aに、外から見ると18万kmに縮んだ電車がすっぽり収まる、というあの話です。あれ、結局どういうことだったんでしょう?

ねこ博士
ステージ4の宿題だね。あの「収まる/収まらない」の謎にも、同時性の相対性でちゃんと決着がつけられるよ。それは次のステージで種明かしをしよう。
確認クイズ
Q1. 折り返しの瞬間に「ワープ」して見えたものの正体は?
正解! 光子は常に秒速30万kmで自分の道を進んでいるだけ。向きを変えたのは、うさ美が「博士の今」をどう決めるかという物差しの方。物ではない「交わる場所」だから、光速を超えて見えても矛盾しないんだ。
Q2. 折り返しの瞬間、うさ美から見た「前方へ発射した光」はどう見える?
正解! 後ろにいた博士の時計は「進む」向きにジャンプしたけど、前方にある光は「距離が縮む」向きにジャンプする。同じ同時性のジャンプでも、位置関係によって向きが変わるんだ。
Q3. 地上に60度傾けて固定された光時計Cの光は、秒速15万km(0.5c)の電車に乗ったうさ美からどう見える?
正解! Cの光の水平方向の速さは c×cos60°=0.5c で、ちょうど電車の速さと同じ。だから電車と一緒に動くうさ美からは、Cの光が真上に上っていくように見えるんだ。