STAGE 8車庫のパラドックスの結末
「収まる/収まらない」も、結局は「同時」の話
🎯 ミッション
ステージ4から持ち越した車庫のパラドックスに決着をつけ、動く電車を「同時に」止めたら何が起きるかまで見届けよう。
未達成

ねこ博士
いよいよ最後のステージ。うさ美が持ち出してくれた、ステージ4の車庫のパラドックスに決着をつけよう。

うさ美
はい。外から見ると、18万kmに縮んだ電車は20万kmの車庫にすっぽり収まるはずなのに、わたしから見ると車庫の方が縮んで収まらない——結局、どちらが本当なんですか?

ねこ博士
いいところに気づいたね。実は「収まる」というのは、「後端が入口を通過する瞬間」と「先端が車庫の奥の壁に到達する瞬間」という2つの出来事が同時かどうかの話なんだ。地上から見ると、後端が入口を通過してから先端が奥の壁に届くまで、計算すると約0.11秒。その間ずっと、電車全体がすっぽり車庫の中に収まっているんだよ。

うさ美
でも電車自身の視点だと、車庫の方が縮んで見えるから、収まらないはずですよね? 同じ2つの出来事は、電車から見るとどうなるんですか?

ねこ博士
そこがおもしろいところなんだ。車庫Aは電車から見ると20万km÷1.25=16万kmに縮んで見える。電車自身の長さは22万5千kmだから、先端が奥の壁に到達した瞬間、入口の壁はまだ後端の手前6万5千km(=22万5千-16万km)の位置にある。

うさ美
そこから入口が後端に届くまで、6万5千km÷18万km/s=約0.36秒かかりますね。

ねこ博士
そう。つまり電車自身の視点では、先端が奥の壁に到達する方が、後端が入口を通過するよりも約0.36秒も先に起きる。後端が入るより先に、もう先端が奥の壁に着いてしまっている――だから「電車全体が車庫の中に収まる瞬間」は、電車自身の視点には存在しないんだよ。
同じ2つの出来事の順序が、観測者によって入れ替わる。
地上系では、後端の入口通過から先端の壁到達までの約0.11秒間、電車全体が車庫に収まっている。電車自身の系では、先端の壁到達の方が約0.36秒早く起き、「電車全体が収まる瞬間」は存在しない
地上系では、後端の入口通過から先端の壁到達までの約0.11秒間、電車全体が車庫に収まっている。電車自身の系では、先端の壁到達の方が約0.36秒早く起き、「電車全体が収まる瞬間」は存在しない

うさ美
あ、これって最初のAとBの謎や、双子のパラドックスと同じですね! 「同時」かどうかが観測者によって違うから、2つの出来事の順番まで入れ替わってしまう。矛盾しているように見えたのは、無意識に「同時」を絶対的なものだと思い込んでいたからなんですね。

ねこ博士
その通り! 車庫のパラドックスも、結局は同時性の相対性で説明がつくんだ。電車がつぶれることも、車庫が壊れることもない――ただ「電車全体が収まって見える瞬間」があるかどうかが、観測者によって変わるだけなんだよ。

うさ美
電車が収まった瞬間に入口を閉めて、急停止すればどうなりますか?

ねこ博士
おもしろい設問だね! 実はこの話、「入口を閉める」ことと「電車を急停止させる」ことを、分けて考える必要があるんだ。

うさ美
入口を閉めることはできますか?

ねこ博士
それはできるよ。入口の扉は、車庫のその一点だけで完結する仕組みだから、後端が入口を通過した瞬間に閉めるのは何の問題もない。難しいのは、そのあとに電車全体を急停止させる方だ。電車は22万5千kmもある長い物体だから、その端から端まで、光より速く「止まれ」という指令を伝えることはできない。それでも、もし無理やり地上時刻でぴったり同時に止めたとしたら、何が起きるか計算してみよう。

うさ美
お願いします。

ねこ博士
先端が奥の壁にちょうど届く瞬間(地上時刻で約0.11秒)に、車庫の中のすべての地点で電車を一斉に止めたとする。地上から見ればこの「先端が止まる」出来事と「後端が止まる」出来事はまったく同時だ。でも、電車自身の(動いていたときの)視点でローレンツ変換すると、先端の方が後端よりも約0.45秒も早く止まってしまうことになるんだ。
地上系では先端停止と後端停止はまったく同時(t=0.11秒)だが、電車自身の視点では先端の方が後端より約0.45秒早く止まる。その間、まだ動いている後ろの車両が、すでに止まった先端に向かって突っ込み続けることになる

うさ美
0.45秒……! それってさっきの双子のパラドックスで出てきた「0.45秒×2=0.9秒ジャンプ」の、半分と同じ計算ですよね?

ねこ博士
その通り、同じ式(速さ×距離÷光速の2乗)だよ。つまり電車自身の立場で見れば、先に止まった先端に、まだ止まっていない後ろの車両が0.45秒間、時速18万kmで突っ込み続けることになる。「収まる/収まらない」どころの話じゃなく、電車が実際に押しつぶされる、本物の衝突事故になるんだ。

うさ美
つまり、動いている物を無理やり同時に止めようとすると、本当に潰れてしまうんですね……「縮んで見える」のはあくまで見かけなのに、無理やり静止させようとした瞬間、本当の圧縮になってしまうんだ。

ねこ博士
その通り! これが「特殊相対性理論の世界に、完全に硬い物体は存在しない」と言われる理由なんだ。力が伝わる速さには限界があるから、長い物体を本当の意味で「一瞬で」止めることはできない。無理やりそれをやろうとした瞬間、電車はその場で崩れてしまうんだよ。
確認クイズ
Q1. 車庫のパラドックスで、電車自身の視点から見ると、2つの出来事はどの順番で起きる?
正解! 地上系では「後端の通過→先端の到達」の順なのに、電車系では順番が入れ替わる。だから電車系には「全体が収まる瞬間」が存在しないんだ。
Q2. 地上から見て「同時」に電車全体を急停止させたとき、電車系で先端と後端の停止に生まれる時間差0.45秒を求める式は?
正解! ステージ5で出てきた「同時のズレ」Δt=γvL/c²と同じ式。地上系の同時は、電車系では同時じゃない――これが本当の衝突を引き起こす。